熊本って・・・いいじゃん!

ピンチヒッターのお仕事、しんちゃんの担当は熊本県全域に渡っており、海沿いの天草列島の最南端から、阿蘇地方の最北端にまでお客さんがいた。とりあえずお客さんに迷惑をかけないため、しんちゃんが周っていたのと同じスケジュールで県内を周る日々が始まった。正直な話、私はあまり熊本が好きじゃなかった。事実、大学時代は岡山で6年間を過ごした。私の住みたい場所は、「都会に近い田舎」だった。大阪まで車で3時間ほどで行ける岡山は理想の地だった。しかし事情で熊本に戻ってきて、都会に遠い田舎である熊本を心から好きではなかった。ところがこの仕事で県内全域を周って、初めて熊本の魅力に気付かされた。豊かな自然、特に阿蘇山の雄大な眺めは心ときめくものがあった。「人生は一度きり。好きなことをして悔いなく生きなきゃ、いつぽっくり行ってしまうかわからないじゃないか。せっかく熊本に住んでいるんだから、世界一のカルデラ、阿蘇に抱かれて住むのは最高の贅沢じゃないか?」急にそう思えてきたのだった。結局、約1ヵ月半の間、しんちゃんのピンチヒッターをした。しんちゃんは、奇跡的に何の後遺症も無く、完全に元の状態で社会復帰できた。8月半ばに倒れたが、10月には仕事に復帰したのである。私は、しんちゃんの奇跡的な幸運に感謝しながらも、次は自分に何か降りかかるかもしれない、悔いなく好きなことをやらねばと考えるようになった。